いち地方の、とある県のT市。小京都と呼ばれる落ち着いた風情を醸し出すのどかな佇まい。
その一角に、県会議員 鬼瓦権造の広大な屋敷がそびえ立ち、そこでの出来事だった。
早朝からの庭掃除をようやく終え、ひと息つこうかと庭石に腰を降ろしたまさにそのタイミング
プァ〜ン
派手なクラクションの咆哮ともに漆黒のクラウンがすっ飛んで来、履いたばかりの庭土の砂煙りを舞い上がらせた。
ち。せっかくの。。。
車の持ち主は、鬼瓦が経営する建設会社の専務。また後援会長という立場でも鬼瓦を長年支えて来た男だ。
だが猛スピードでの乗り入れ、一歩間違えば事故に繋がる。ここは文句のひとつやふたつ云うべき。。。と腰を上げる。
え? なんとまぁ
後援会長は車から飛び降りるや、すでに屋敷内に駆け込んでいた。
ん! 一体何
いつにない後援会長の慌てぶりが気になった。
あ!
もしやあの件?
それは 少し前から、同じ書生たちの間でしきりに噂されていた。
来年の夏に行われる国政選挙。政権与党、民自党幹事長からの直々の要請で、鬼瓦も民自党公認として是非とも出馬を。
そんな噂がささやかれ始めていたのだ。
鬼瓦が当選の暁には、晴れて国会議員。
すなわち
この自分も 国会議員!
の秘書!
県会議員秘書と国会議員秘書
その違いたるや雲泥の差。
そして
やがては、鬼瓦の地盤を引き継ぎ、
この俺だって国会議員!
いやっホ〜
不意に年老いた母の顔が浮かんだ。
いよいよこの俺も国会議員。
苦節数十年、いきなり飛び込んできた夢に胸が踊った。
はやる気持ちを抑え、権造の部屋へと急いだ。
『な、なんだとッ!』
いきなり権造の大声が廊下に響き渡った。
『す、すんません』
続いて後援会長の声
?
まさか
国政選挙の話は、ご破算?
耳を澄ませ、部屋の様子を探った。
重苦しい権造の声が続いた。
『娘は高校卒業したばかり、まだ18だぜ』
『すんません』
『なのに琴に縁談てか』
【コトは十代ぞ】