外はうだる様な暑さだと言うのに、玄関から土間、そして裏庭へと通り抜ける風が心地良い。
エアコンなどとは無縁な古都の古民家。
和装着物店の三女は、午後の昼寝を愉しむべくいつもの場所に寝転んだ。
そっと耳を澄ましてみる。金魚売りの声を探してみるものの、今日はまだのようだった。
子供の頃、風鈴売りに氷売りとたいそう賑やかなものだったが、唯一残る金魚売りも、毎日は来てくれやしない。
ま、そらそうだわ。毎日買ってくれる家などあるわけ無い。あははと、ひと笑いするや天井の黒い梁が目に入る。
ふいに番頭の黒沢を思い出す。名前の通り浅黒い顔。先代から番頭として店を切り盛り、その働きぶりには頭が下がる。先代つまり祖父の急死でいきなり店を継ぐはめになった役所勤めだった父を助け、実に頼もしい存在だ。
黒沢からかけられた朝の言葉が甦る。
『奈都子お嬢はん、 いよいよあさってですな。お見合い』
あちゃ〜。
今まで実感として、とくに何も湧かなかったのだが、お見合いを思うと急に胸がドキドキし始めだした。
え〜 何なのこれ。
お見合いを考え、
緊張する奈都子・・・・
【キンチョウのナツ】であった。。。