身も凍えるような、厳冬だった昨年と異なり、今年の正月の旅は比較的穏やかだった。
漁師町の居酒屋にも関わらず まさかのスルメ烏賊が無かったことを除けば、それなりに満足だった日本海の旅だった事に、男は目を細めついほくそ笑んだ。
あら、どうかしまして?
ほくそ笑んだ表情のまま、四人がけのボックス、対面の婦人と眼が合ってしまった。
え。あ、いや 何でもない。す、すんません、こちらの都合で。。
俺とも在ろう者が、何を慌ててる。。。
そんな愚痴を飲み込み
しっかしまぁ、たまにはローカル線の旅も良いもんですな。
勇気を振り絞り話しかけてみた。
だが、婦人は
そうかしら。
たったのひと言を呟いたきり、膝上に乗せていた文庫本を広げるや眼を落とした。
どうやら見知らぬ男に対し、無駄話など真っ平ごめん、だんまりを決め込んだようだった。
観察する気などさらさらなかったが、良く見れば婦人の荷物と云えば、ヒザの文庫本一冊だけだ。何気なくを装い網棚に眼を向けても見たが、やはり網棚には自分のボストンバッグが一個乗っかるだけだ。
旅でなく、地元の人。。?
まさか。誰も居ないホームから乗り込んだとき、婦人はすでに座っていた。あれから小一時間、さらに次の特急への乗り換え停車駅までとなると、かなりの移動距離となる。
やがて乗り換え駅に到着。
じゃあ。
婦人にかけるとも無く声をかけ立ち上がると、婦人も立ち上がった。振り返ると後ろにぴったり寄り添うようにくっつきながらいるではないか。
え?
特急への乗り換えホームには今流行の駅ナカショップが並び、洒落た様々なモノが溢れていた。
その時、後ろから声が聞こえた。
あのう、よろしければ買って下さらない?
はい?
そこのショップ、オーナーなの。私。
って?何の?
幸運を呼び込むリング。。。
え、あの?
ええ、素敵な色でしょ?
あのリング【輪、買って下さい】
(-_-;)